ハリー・ポッターと〈3〉の主題
Q ハリー・ポッターは何故ダーズリー家で迫害されるのか?
A ハリーが加わるとダーズリー家が3人家族でなくなってしまうから
‘Have a good term,’ said Uncle Vernon with an even nastier smile. He left without another word. Harry turned and saw the Dursleys drive away. All three of them were laughing.
(Harry Potter and the Philosopher's Stone, Ch.6 p.97)
「新学期を楽しめよ」と言ってバーノンおじはさらに不快な笑みを浮かべた。彼は一言も言わずに去った。ハリーが振り向くとダーズリー家が車で走り去るのが見えた。3人とも声を立てて笑っていた。
『Harry Potter and the Philosopher's Stone』という長編小説は〈3〉が重要な役割を演じている。
ダーズリー家の3人、ポッター家の3人、ハリーをダーズリー家に届けたダンブルドア・マクゴナガル・ハグリッドの3人、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人組、マルフォイ、クラッブ、ゴイルの3人組、賢者の石を守る3頭犬、禁じられた森に住む3頭のケンタウロス、など。
〈3〉という数字に象徴的な意味を見出すつもりはないが、少なくとも〈2〉という数字に二元論的な対立の可能性が内在するのに比べ、〈3〉には三位一体といった構造的な安定感がある、という程度のことは言えるだろう。しかしまた〈3〉は常に分裂と侵入の危険にさらされている。
分裂とは言うまでもなく〈1〉と〈2〉に分かれることである。ハリーら3人組の友情を例にとれば、男二人のホモソーシャルに排除されるハーマイオニー、あるいは恋を優先したロンとハーマイオニーに阻害されるハリー、という二つの組み合わせがいかに不安定なことか。
魔法使いが純血、半純血、マグル生まれから構成されていることからも〈3〉が見出されるが、この秩序は純血主義によって分断される可能性がある。
ところが分裂した〈1〉、〈2〉は安定感がないため、〈3〉の形成へ向かおうとする。
Chapter 14ではノーバートを送り返す際にハリーとハーマイオニーが2人で行動するが、その結果が減点と罰則である。しかし2人はすぐにまた同じく減点・罰則を受けたネビルを抱え込むことで〈3〉になり、禁じられた森ではハグリッド、マルフォイ、ファングも加わるが、常に3人一組で行動することになる。
そして〈3〉は〈4〉になることを望まない。〈3〉の安定した秩序に余剰なものが追加されることを好まず、〈3〉は〈1〉を排除する。
この論の冒頭ではダンブルドア・マクゴナガル・ハグリッドを3人の例としてあげたが、もちろん赤ん坊を含めてこの集団を〈4〉と見做すこともできる。ここでもやはり〈3〉の力学が働くため、ハリーがダーズリー家に預けられることで〈1〉が排除(排出)され、〈4〉→〈3〉に移行する。
あぶれた〈1〉が行き着く先もまたダーズリー家という〈3〉人家族であった。
冒頭の問いにもどるが、ハリーがダーズリー家で迫害されたのは、ダーズリー家の〈3〉の秩序がハリーの侵入によって〈4〉になってしまうため抑圧が働いたからだと説明できる。ダーズリー家には寝室が4つあるのに、ハリーを除く3人だけが使用する。これもまた〈3〉が頑なに〈4〉であることを認めようとしないさまである。本文から引用した箇所はダーズリー家が〈3〉の秩序を回復した場面。
〈4〉と言えばホグワーツの寮が4つである。寮は4人の創立者にちなんでいるが、そのうちの1人サラザール・スリザリンは純血主義を理由に他の3人と対立する。ここにおいても〈4〉→〈3〉の力学が働いている。